不意に寒くなって、俺はふわふわと心地いいまどろみから覚めてしまった。

 原因はすぐに知れた。
 抱き込んでいた律が身動きして、隙間を作ったせいだ。
 俺たちはただでさえ素っ裸で、しかも季節は冬で、くっついてなきゃ寒いに決まってる。
 俺はそいつの体に回してた腕に力を込め直し、ぎゅっと引き寄せた。
 いつもならそこで終わり。
 また穏やかな甘い眠りにつくだけ。



 でも律は、少し大人しくなったと思ったら、またもぞもぞと動いた。
 どうやら俺の胸の中から抜け出そうとしてるらしい。
 トイレにでも行くのか?
 どこにも行かせたくないが、もしそうならさすがに酷だから、俺はとりあえずそいつを離してやった。

 だけどお前腰、









「ぃっっつ!!!」









 ‥‥‥‥‥‥‥‥だろうな。

 俺を跨いでベッドを降りた途端、押し殺した悲鳴とべしゃっていう音がする。
 まあ確かにちょっとばかりやりすぎたかな、とは、自分でも思ってる。
 だって照れ屋でひねくれてて、めでたく恋人になったってのに未だに素直じゃないあいつが、
 俺の誕生日に名前入りのペアネックレスを贈ってくれたんだ。
 鼻血でも出るんじゃないかって心配になるくらい顔真っ赤にしながら「おおおお誕生日、おめでとうございます。
 ‥‥‥‥す、好きです」なんて言われたら我慢できるわけねーだろ?

 まあ処理はしたし体も拭いたから、大丈夫だろうけどな。‥‥‥‥‥腰以外は。
 今日は車出勤だな。
 もう仕事納めだしそこまで大変じゃないはずだが、それなりに反省してるから、さりげなく気遣うか。


 一瞬重い瞼を持ち上げてみると、どうやらまだ夜明け前らしかった。
 俺は目をつむり直し、妙に寒いベッドで一人縮こまる。

 でも再び寝付くのより、律が寝室に帰ってくる方が早かった。
 気配でもふらついてるのがわかる。
 朝、本当に無理そうだったら休ませるか。


 心配になった俺がそう思った時、後ろでがさりと音がした。


 サイドテーブルに何か置いたらしい。
 一体なんだと訝しんでいる間に、律がさっきのように俺を跨いで、隣に戻ってくる。
 素っ裸でうろうろしてたせいだろう、すっかり冷たくなってる。
 その辺に脱ぎ捨ててある服でも俺のカーディガンでも着ればいいのに。
 でも俺の思考はそこで停止した。











 律が躊躇いがちに、俺の腕を持ち上げて、その中に凍えた体を滑り込ませてきたから。











 もしかして今までも、こうしてたんだろうか。
 ここが自分の位置だと認識してくれているのだろうか。
 いやもう、例えそうじゃなくても、ただ寒いからでもなんでもいい。



 嬉しい。



 自分から俺の腕の中に戻ってきてくれたことが。





























「‥‥‥‥‥‥‥‥メリークリスマス、高野さん」





























 ちゅ。



 囁くように言って頬に可愛らしいキスをくれた律は、また俺の胸に顔を埋めて、今度こそ大人しくなった。
 からかってやっても、愛してやってもよかったかもしれない。
 だけど、この空気を壊してしまうのがあんまりに勿体なくて、律が眠ってしまうまで狸寝入りを続けた。
 そろりと覗うと、少し低い位置に、少しあどけないいつもの寝顔。





「律‥‥‥」





 つい笑みを浮かべながら、さらさらとした髪を指に絡める。
 でもやっぱり少し気になって、俺は律を抱きしめたまま、体の向きを変えてサイドテーブルに目をやった。











「‥‥‥‥‥‥‥‥なんだ、これ」











 見慣れない包み。
 薄暗いから余計わからない。
 俺は手を伸ばしてそれを持ち上げ、目の前に掲げた。
 なんだろう、意外と重い。

 本みたいな‥‥‥‥‥‥?

 すると、ひらりと、カードが落ちてきて。
 それが何だかわかった瞬間、俺は相当な間抜け面をしてたに違いない。







「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥っ、」





























『Merry Christmas



 MASAMUNE』





























 律には乙女思考だロマンチストだと散々言われるが、俺はサンタクロースだけは信じていなかった。
 それを信じていた時期、一度としてサンタクロースが来なかったから。
 だからとうの昔に諦め、自分の人生から抹消していたのに。







 クリスマスに、枕元にプレゼントがあったことなんて、去年の28度目のクリスマスまで、なかったのに。















 何気ない俺の昔話を覚えてて、だからこんなことしてくれたのか?



























「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥アホか、おまえは、」



























 お前は睦言を囁く度に「アンタ俺の心臓潰す気ですか」とか「俺の寿命どんだけ縮めたら気が済むんですか」とか言って、
 真っ赤になって怒るけど。



 お前こそ、俺を一体どうしたいんだよ。



 もうこれ以上、俺にお前を好きにならせて、どうすんだよ。



 お前はいつも不意打ちで、無愛想に、でも真っ直ぐに、一人じゃ到底抱えきれないくらいの幸せを押しつけてくる。

 せめて分割して、毎日ちょっとずつにしてくれよ。



 俺だって、心臓、もたねーよ。















「‥‥‥‥‥‥‥‥律」















 ずっと、伝えたかった言葉があるんだ。
 付き合ってなかった去年の延長で、クリスマスプレゼントすら用意できてないけど。
 この言葉を、お前に告げたい。
 次から次へ沸き上がってくる、『好き』じゃ足りないお前への気持ち。

 これで俺の想いは、今までよりもっと正確に、お前の心に届くのかな?















 律、





























 あいしてる






















次に目がめたら












 ありったけの想いを込めて贈るから、受け取ってください