「なあ、律」

「は、はいっ」

「お前これの意味、わかる?」





 理数が苦手な律に、図書室で数学を教えている最中。



 なんとはなしに俺が指差したのは、几帳面な文字数字が並ぶノートの、ひとつの記号。



 相変わらず挙動不審が目立つ律は、少し戸惑ったような顔をした。





「え? えーと、掛ける、ですよね?」

「まあそうだけど。他は?」

「ほ、他? バツ‥‥‥‥」

「うん。あとは」

「ええ!? ま、まだあるんですか? 引っかけ問題ですか!?」

「いや全然」

「えー‥‥‥‥‥? 掛けると、バツと‥‥‥‥‥あとー‥‥‥‥‥‥‥‥」





 最近見つけた律のクセ。



 応用問題とかで躓いて解けなくなると、軽く眉間に皺を寄せて。





 拗ねるみたいに、軽く唇を突き出す。







 やわらかいそこは、シャーペンの端が当たって、ふにゅりと少し凹んで。













 あー、キスしたい。






  ×××