雨が吹き込まないように、窓という窓は全部閉め切ってある。
なのに吹きつける風がガラスをがたがた揺さぶり、小さな雨水が弾丸のように、家を貫通しそうな勢いで叩きつけてくる。
30分前までは、普通に晴れてたはずなんだけどな。
灰色に煙る景色を眺めてたら、遠慮がちにドアが開いた。
「せ、先輩。電話貸していただいて、ありがとうございました」
「別に。なんだって?」
「親に了解は取れました。‥‥‥‥‥‥すみません、今夜、お世話になります」
体を小さくして、律は全身で恐縮を示す。
ホントに、こいつは。
俺が迷惑がってるとでも思ってるのか?
むしろ願ったりの状況に、浮かれそうになるのを必死に抑えてるのに。
「急なのに、よくオッケーしてくれたな。親、結構厳しいんだろ?」
「あ、はい、でも雨も風もすごいから無理しなくていいって。それに前も一回泊めさせてもらったし、
俺が嵯峨先輩にはお世話になってるって、親も知ってるので」
「へえ。付き合ってることも?」
「ええ!!? い、いえ、それは‥‥‥‥‥」
「なんだ。言えばいーのに」
「せ、先輩‥‥‥‥!!」
そんなことで赤くなるなよ。かわいいだけだから。
俺はベッドから立ち上がり、ドアの傍に佇むそいつのやわらかい髪を撫でる。
頬を染めたまま視線を足下で泳がせるのを見下ろす格好。
いつもの光景なのに、つい口が弧を描いてしまう。
「腹空かないか?」
「え? あ、‥‥‥‥‥えと」
「下行こう。ソラ太のも用意しなきゃいけないし」
俺はそいつの手を取って、階段を下り始めた。
いきなりで驚いて、ついでに緊張してるのか、硬く強張った指。
絡めようとしても、キスする時の口と一緒で、こっちの意図をわかってくれず閉じたままだ。
それなのに、なんでかな。
お前といると、本当に心臓が変になる。
多分お前は、自分だけだと思ってるんだろうけど。
「ソラ太」
リビングで小さな塊を見つけたから呼ぶと、子猫は撥ねるように寄ってきた。
律は猫が、というより動物全般が駄目らしく、掌サイズのこいつからさえ逃げ回る。
ソラ太はまだ子猫だし家中をうろちょろするけど、律がいる時はなるべく近づけないようにして、部屋にも入れない。
こうやって待ちかねてたみたいにすり寄ってくるのをみると、少し不憫にも思うけど、律がいない時散々構ってるから勘弁してほしい。
家ではコイツが一番なのに、律がいると、俺の中で律が勝手に最優先になる。
「何か食べたいもんとかある? 俺に作れるのなら作るけど」
「えっ、先輩お料理できるんですか!? すごい!!」
「まあ今一人暮らしみたいなもんだからな。リクエストとかない?」
「あ、いえ、先輩が作ってくれるものなら、なんでも‥‥‥‥」
また、お前はそうやって‥‥‥‥。
無意識なんだろうけど。
俺はソラ太を抱えたまま冷蔵庫を開ける。
「アレルギーとか食えないのとかある?」
「いえ、ないです」
「わかった。じゃあ適当に作るな」
「お、俺も何か手伝います!」
「いや、いい。上でさっきの本読んでろ」
「えっ」
「気になってたんだろ?」
俺の部屋は本棚に入りきらない本が床に山積みになってる。
さっき俺が飲み物持って部屋に戻った時、その中の一冊を、律は少し捲って覗き込んでいた。
まあ、俺に気付いた律が「うわああすみません!!」とか言いながらそれを戻そうとして、
本の山をほとんど全部崩して、すげーパニクってたっていうオチつきけど。
「でも‥‥‥‥」
「それにさ。俺が台所にいる間、ソラ太俺の足下うろつく癖あるけど。大丈夫?」
「‥‥‥‥‥‥す、すみません。部屋行かせてもらいます」
「どーぞ。出来たら呼ぶから」
「はい‥‥‥‥」
すみません、ともう一度謝ってから、律はとんとんと階段を上がっていった。
出来たら呼ぶ、なんて。
そんな台詞初めて言った気がする。
なんかくすぐったいな、と軽く笑いながら、俺はソラ太を下ろしてもう一度冷蔵庫を開けた。
この荒れた天気だから買い物にも行けず、あり合わせで野菜炒めを作った。
それでも律は「おいしいです!!」って言ってくれて、まあ予想はしてたけど、実際そんな弾んだ声で言われると、結構嬉しかった。
洗い物くらいしたいって言うから任せて、俺はソラ太が律の方へ行かないように遊んでやる。
パニックのハードル低いからな、律は。
ソラ太が奇襲を仕掛けたら、皿全部割りかねない。
「8時か‥‥‥‥」
あんまり時間がない。
12時間後には、もう登校するために家を出てるはずだ。
短い。
あまりにも。
いつもはもっと短いんだけど。
「終わりましたー」
腕まくりしてたシャツの袖を直しながら、律が俺のいるソファに近づいてくる。
俺はさりげなくソラ太を膝の上に固定してから、隣に座るよう促した。
「お前、いつも何時頃寝てんの?」
「えっ? えーと、11時くらいですかね‥‥‥‥」
意外と遅いな。
お坊ちゃまで親も厳しいみたいだから、もうちょっと早寝すると思ってた。
「それまで何してんの?」
「えーと‥‥‥‥本読んでます」
「あぁ、俺と一緒か」
「え、そうなんですか!?」
え、何。
そこ食いつくとこ?
なんでそんな目キラキラさせてんの?
「な、なんか嬉しいです。先輩も、俺と一緒なんですね」
‥‥‥‥‥‥‥ああ、もう。
「‥‥‥‥‥なあ律」
「はい」
「お前さ、俺をどうしたいわけ?」
「えっ?」
常々抱いてた疑問。
どう答えるのか、俺は内心かなり気になった。
すると律はきょとんとしたように、大きな目を俺に向ける。
「‥‥‥‥‥どうしたいとか、ないですよ。俺はただ、先輩が好きなだけなんで‥‥‥‥‥」
自分で言った途端恥ずかしくなったのか、また赤くなった顔を慌てて伏せる律。
膝の上に置かれた拳が、少し震えてる。
ああ、ソラ太。
俺の心の平穏を保ってくれるのは結局お前だけらしい。
二個下の後輩に心臓掴まれてんじゃねぇよ俺。へたれか。
「そんじゃ、風呂が沸くまで読書タイムにするか」
幸いなことに、表面を取り繕うのには慣れてる。
部屋戻るぞ、と手招きすると、そいつは急いで立ち上がってひょこひょこ着いてくる。
最初の頃はただただ鬱陶しかったのに、そういう犬みたいなとこも、今はかわいいと思う。
俺は風呂のスイッチを入れて、ソラ太に「待て」をして、律と二人、部屋に入った。
「なんで? いーじゃん」
「駄目です!!!」
律が必死になって俺を追い出そうとする。
こいつはまず、自分から俺に触ろうとしないから、かなり珍しい行動だ。
「やることやってんのに一緒に風呂入るのが恥ずかしいとか、どんだけ」
「だ、駄目なものは駄目なんです!! 無理です!!」
俺が先に入るって言った。
律はどうぞ、と答えた。
一瞬俺に向けた目をすぐ本に戻したから、俺はちょっとイラッときて、やっぱ一緒に入ろうと無理矢理引っ張ってきた。
が、それなら俺が先に入ります!! と律が言い出して、今に至る。
「す、すぐ出ますから、ちょっと待ってください!!」
「なんで。付き合ってんだろ?」
「いや、あの、ホントに‥‥‥‥!!!」
顔真っ赤。今日だけで何回目?
俺を追い出そうとする律のこれが本気なら、余裕で勝てる。
でもこのままだと頭の血管が切れるんじゃないかと少し心配になった。
「‥‥‥‥あーもー、わかったよ。さっさと入れ」
「は、はい。お先に失礼しますっ!!」
ばたん。
俺が風呂場に繋がる洗面所を出た途端、ドアが閉まる。
「‥‥‥‥‥あいつ、ホント変だよな」
何事かと寄ってきたソラ太の頭を撫でながら、俺は苦笑する。
ドアの中ではしばらくばたばたいってたが、やがてシャワーの音が聞こえ始めた。
なあ、律。
気付いてないみたいだけど、洗面所、鍵ついてないんだけど?
俺は追い出されたばかりのドアを開け、服を脱いで洗濯機を回すと、律のいる風呂場に入った。
こっちに背中を向けてシャワーを浴びていた律が、物音に気付いたのか、ぎょっとしたように振り返る。
「なっ‥‥‥‥‥え!? 先輩!!?」
「律‥‥‥‥」
「うわわ、ちょ、嵯峨先輩!! ひあっ」
風呂はやけに声が反響する。
こうやって一緒に入るの、初めてだな。
俺は律が冷えないよう、出しっぱなしのシャワーを定位置に引っかけて、その下で抱き寄せてキスをした。
口閉じる癖、直らないもんだな。
「律。口」
「あ、あの、せんぱ‥‥‥‥んぅ、ふっ」
言いかけるのも聞かず歯列の隙間から舌を忍び込ませると、おずおずと絡めてくる。
こいつからも俺を求めてくれてるみたいで、嬉しい。
息させてやろうと思って少し口を離すと、苦しそうにしてたくせに追いかけてくる。
ああもう、ホントに、お前は。
お前はどこまでも、俺を捕まえて、離しちゃくれないんだな。
「あ、‥‥‥‥ちょ、先輩‥‥‥‥‥っっ」
「なに?」
「きょ、今日は、もう‥‥‥‥っ!」
「ん?」
俺たちはさっき、行為に及んでいた。
まあそうなるだろうなと思いながら、俺は律を家に呼んだわけだし。
いろいろやってぐちゃぐちゃになってる間に、雨が降ってきて。
でも、泊まればって言ったのは俺だけど、傘あるからなんとかすれば帰れるのに、最終的にここを選んだのはお前で。
不可抗力とはいえ、ひとつ屋根の下で朝まで二人きり。
もう何もないと安心してたなら甘すぎるだろ。
お前を目の前にして、一晩我慢できるとでも思ってんの?
俺はボディソープを手にとって、律の体に滑らせる。
きめの細かい肌。
胸の突起の周囲を指が滑った時、ぴくっと律が反応した。
やばい。ホントにやばい。初めてでもないのに。
「はぁ、あ‥‥‥‥や、だめ、」
「なんで?」
「っあ‥‥‥!」
小さなそれを指で弄り、泡をシャワーで流してから舐めた。
ちゃんと感じてるって教えてくれるみたいに、舌で転がすそれが硬くなってるのは単純に嬉しい。
水滴が無数に付き、筋になって流れ落ちていくのを間近で見るのは、結構な絶景で。
普通に、綺麗だった。
「せ、んぱい、‥‥‥‥だめ、も‥‥‥‥っ」
息が上がると同時に、だんだんと、律の足の力が抜けていく。
俺はその体を支えて、一緒にゆっくりと腰を落とした。
へたり込んだ律の脚の間に、膝を割り込ませるのを忘れずに。
「‥‥‥‥‥‥せんぱい‥‥‥‥」
律が小さく俺を呼びながら、俺を見る。
その目は涙が溜まって、俺をちゃんと捉えられてないのか、視線がゆらゆら揺れる。
色の薄い濡れた髪が、額や頬にへばりついてる。
なに? って聞いたら、蚊の鳴くような声で、好きですと言われる。
そんなの、知ってる。
でも、何回言われても慣れないな。
こいつ以外からも言われたこと、あるのに。
その時は、こんなふうに、心が掻きむしられるような感覚も、なかったのに。
「っあ、んっやぁ、せんぱい‥‥‥‥っっ!」
俺は身をかがめて、ひくひく震える律のそれに舌を這わせる。
そして、片腕で律の体を支えて。
空いた方の手で、律の後ろを慣らす。
さっきしたから大分やわらかいけど、なるべく負担を減らしたい。
今回は焦らさずに、一番声を上げる場所を集中的に刺激する。
「ひぁんっ!! やっせんぱ、そこ、ああぁ、はっあっ‥‥‥‥!!」
「いいんだろ?」
「だ‥‥‥‥め、も、くち‥‥‥っ、ぁんんっ!!!」
毎度毎度、俺の口に出すまいと我慢するのもいいけど、俺がしたいからしてるっていい加減わかれよな。
無意味なことをする律の先端をきつく吸い上げれば、限界を示していたそれは呆気なく熱を放った。
全部飲み下してから様子を窺うと、律は湯船にぐったりと片腕を預けて息を荒げていた。
熱に浮かされたようなぽやぽやした表情で、俺を見る。
たまらなくなってキスすると、力が抜けた唇に、舌に、あっという間に魅了された。
でも普段の、いかにも慣れてませんっていう強張ったキスも、嫌いじゃなかったりする。
「律‥‥‥」
「っ‥‥‥‥‥‥‥ぁ、せ、んぱ‥‥‥」
俺より一回り小さくて細い律を抱き寄せる。
濡れた肌が吸い付くように触れ合って、いつもより密着してるような感じがして、少し照れくさくなる。
俺はそれを誤魔化すように、破裂しそうな勢いで暴れ回る律の心臓の上に、むしろ自分のそれをなだめるように唇を押し当てて。
がっつきそうになるのを必死に抑えて、ゆっくり腰を落とさせ、その躯を押し開いた。
「うあぁ、っは、‥‥‥‥‥あ、ぁ、」
挿れる時、いつも苦しそうに眉根を寄せる律は、俺の肩に爪を食い込ませる。
痛いっちゃ痛いけど、俺は何も言わない。
むしろ無意識であろうそれに律が気付いてくれないことを祈っていた。
嬉しいんだ。
少しでも、俺に痛みを分けてくれるのが。
頼ってくれているような、気がして。
「律‥‥‥‥‥大丈夫か、」
「っあ‥‥‥‥はぃ、だいじょ‥‥‥‥‥ぶです、」
大丈夫なわけないのにな。
俺を深くまで受け入れて息も絶え絶えなのに、いつも健気に答えてくれる。
浅い収縮を繰り返すそこが、痙攣でも起こすように、時々きつく締め上げてくる。
一刻も早く貪ってしまいたい気持ちと、この時間を壊してしまうのが勿体ない気持ちがせめぎ合って、
俺は全身火照らせてる律を抱きしめた。
力の入らない腕を、遠慮がちに肩に回してくれる感触。
なあ律、俺が今すげー幸せだって、伝わってるよな?
「律、動くぞ‥‥‥‥っ」
「ぅあ、せんぱ‥‥‥‥っぁあ!! や、ふあ、ぁあんっっ」
いくら繋がっても、足りないんだ。
背負っていた律を、そっとベッドに横たえる。
幸い目を覚まさなかったから、俺は少し安心して、明らかにサイズのでかい俺のパジャマを着る律の体に、布団を掛けてやった。
頬に手を触れると、まだ少し熱い。
加減はした‥‥‥‥‥‥‥つもりだけど、明日学校行けるだろうな。
そんなことを考えながら、額や鼻、瞼、唇と、順に指を滑らせる。
あまりに、穏やかな寝顔。
俺はその両脇に手をついて。
「好きだ、律」
空気との摩擦で、俺の気持ちが褪せて届くのが嫌で、俺はその耳に唇を押しつけるようにして、囁いた。
くすぐったかったのか、んぅ、と律が呻る。
俺は思わず咲って額にキスをすると、そいつの重力に抗うように起き上がる。
早く律のYシャツを干さなきゃいけない。
乾かなかったら一日くらい俺のでもと思ったけど、サイズに無理があることがよくわかった。
名残惜しかったけど、どうせ後で一緒に寝るんだから。
思考回路が少女漫画みたいになってる自分を嗤いながら、俺は静かに部屋を出た。
雨がいつの間にかしとしとと小降りになってることに、今更気付いた。
「律! 時間!」
「今行きます〜っ」
ぱたぱたと律が階段を下りてくる。
家に今日の授業の教科書とか取りに行かなきゃって律は焦ってたけど、俺のを貸すってことで落ち着いた。
正直、行かせたくなかった。
昨日の放課後からもう半日以上一緒にいるのに、逆に離れがたくなってる。
これが日常だったらどんなにいいだろう。
ちなみにだが、律はノートは全部持ち歩いてるらしい。何かあった時のために、らしいが、一体何が起こると思ってるんだろう。
でもそのよくわからないポリシーのおかげで、俺たちは今から一緒に登校できるわけで。
いいか。なんでも。
「律」
「はい?」
警戒心ゼロで振り返る律の顎を掴み、キスをした。
不意打ちだったはずなのに、舌でつついてみるけど、やっぱり口は閉じられてて。
まあ朝っぱらからディープキスなんかしたらこいつ真面目に学校行けなくなりそうだから、我慢するか。
角度を変えてもう一度啄んでから、解放してやる。
ああ、また真っ赤だよ。
昨日から数えて何回目だよ。
「‥‥‥‥‥‥せ、んぱい‥‥‥‥‥?」
「何? もっかい?」
「えええ!? ちっ違います!! は、早く行かないと遅刻しちゃいますよ!!」
「あー、そうだな」
ぱっと見でも大きさの違う学校指定の靴に、それぞれ足を突っ込む。
ソラ太は俺が出かける時も帰ってきた時も、玄関まで来る。
律はいってきます、と笑って子猫に手を振った。
こないだ引っかかれて今まで以上にびくびくしてるくせに、やっぱり嫌いにはなってないらしい。
俺は少し安心して、家のドアを閉めた。
いつもの通学路。
いつもと違うのは、律がいること。
そしてもうひとつ、違うことがあった。
それは律が、真後ろじゃなくて、俺の斜め後ろにいること。
あんまり首を回さなくても律が視界に入る。
こんなの初めてだ。
「‥‥‥‥‥‥? 嵯峨先輩?」
やっぱり無意識だな、こいつ。
空は、昨日の雨風が嘘だったみたいに晴れ渡ってる。
濡れた地面も乾いてきてる。
でも昨日のことは全部、本当にあったことだ。
律が少しだけ、気持ちだけじゃない現実の距離を縮めてくれているのが、馬鹿みたいに嬉しくて。
俺も少しだけ、体だけじゃない心の距離を縮めたくなった。
「律。今日の放課後、図書室で待ってるから」
「えっ?」
「俺がいなかったら、いつもの席で待ってて」
こんなふうに約束しようとしたことは、今までなかった。
図書室に行ったらたまたまいて。
図書室にいたらたまたま来て。
いや、たまたまっていうか、図書室でなら会えるってわかってて通ってるんだけど。
多分こいつもそうなんだろうけど。
でも、なんとなく。
約束したい気分だった。
予想に違わず、また赤くなって頷いてくれる、律と。
「‥‥‥‥は、はい。わかりました」
俺の勇気なんてこんなもんだけどさ。
でもこういう時間を重ねてれば、きっといつか、お前が俺の隣で自然に咲えるようになるって、信じてるから。
俺も、きっと近いうちに、お前を真正面から見て、好きだって言うよ。
今はまだ、ちゃんと伝えられないけど。
「そういえばさ、宇佐見秋彦の新刊、明日発売だっけ?」
「あ、そうですよ!! 俺もう今から楽しみで!!」
「雑誌で読んだやつだろ?」
「でもやっぱり本だと重みが違うっていうか‥‥‥‥」
「まあちょっとわかるけど」
「ですよね!?」
だからさ、律。
もうちょっとだけ、待ってて?
もうちょっとだけ、