ピアスホール




「お前、ピアス空けてんの?」




 ふと気付いたように、高野さんが言った。



 俺は両耳にピアスホールがある。

 15の時空けた。

 勝手にやったから、母親に知られた時はかなり怒られた。

 それまで俺は親にあんまり意見とか反抗とかしたことなかったけど、ひねくれ始めていたのもあって譲らず、

 以来塞がらないようにずっと気をつけてきた。


 でも正直、別にピアスがしたくて空けたわけじゃない。


 だからあんまり目立つピアスをしたことはない。



「誰に空けてもらったんだよ」

「友達ですけど」

「男? 女?」

「は? なんでですか」

「あーいや、やっぱいい。どっちにしたって苛つく」



 ‥‥‥‥‥‥何やら、俺は高野さんの機嫌を損ねてしまったらしい。

 ごめんなさいエメ編の皆さん。

 この人誰かに当たり散らしたりは‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥あんまりしないけど、

 とにかく無言の威圧感が増すんですよね‥‥‥‥。

 胸の内で迷惑を掛けるだろう人たちに謝っている間も、高野さんは俺の耳をまじまじと見ている。




「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥なんですか」

「いや、‥‥‥‥‥‥俺、ピアスとかよくわかんねーけどさ。



 なんか、塞がりかかってねーか? いいのか?」




「――――――――――‥‥‥‥‥」








 このピアスホールは、留学してすぐ、友達に空けてもらったものだ。



 だって人生が変わるって聞いたから。



 俺は切に、それを願っていたから。



 藁にも縋るような思いで、空けた。


 こんな些細な痛みと引き替えに、俺の人生が変わるならと。




 俺は、馬鹿だった。

 馬鹿なくらい、先輩が好きだった。


 俺が望んだ未来はひとつだけ。










 先輩に、


















 俺を、好きになってほしかった。


















 次会えるかは知らない。

 会ったところで、一度無理だったのに今度は好きになってもらえるかどうか、なんて予想すら付かない。

 でも自分をどう変えればいいかわからない。








 だから、このままの俺を、好きになってくれるように。








 先輩に好かれる俺になるように。












 俺を好いてくれる先輩になってくれるように。












 それだけを願っていた。








 その願いを、この小さなふたつのピアスホールに託した。












「‥‥‥‥‥小野寺?」

「‥‥‥‥‥」

「泣くなよ、」












 俺の涙を、その人の唇が拭っていく。

 やさしい感触。

 確かな、感触。




 持っていた数種類のピアスは、とっくの昔に捨てた。




 どうか。





 どうか、早く塞がって。












「律‥‥‥‥」












 もう、このまま、変わってしまわないで。