春はやはり、桜が主役の白。
夏は目が眩みそうな、燃えるような葉の緑。
それが秋には黄、橙、赤と、あたたかな色に染まり。
そして、今。
木枯らしが吹いている。
俺たちが再会してから、一年が経とうとしている。
丸川に転職してからの期間とイコールだから、ホントにずっとばたばたしてたし、長かったとは思わない。
でもすごく、濃厚だった。
最初は「少女漫画なんて」って思ってた俺が、
文芸じゃなくてもちゃんとした編集になりたいと思うようになったのは、もう結構前の話だ。
そして、高野さんに「もう一回好きって言わせてやる」と宣言されたのは、それより更に前。
あれからすごく、いろいろあった。
「何青春してんだよ」
「‥‥‥‥‥いいじゃないですか。そういう季節なんですから」
「言っとくが、青春って要するに春だからな?」
「それくらい知ってます。でもなんか、‥‥‥‥‥‥葉っぱが落ちる季節って、なんとなく、物思いに耽りませんか」
「まあ、物悲しい感じはあるよな」
図書館からの帰り道。
日中掃除しているんだろうけど、大小の風で途切れることなく枯れた葉っぱが落ちてきて、それを避けて歩く方が難しいくらいだ。
一歩足を踏み出す度、かさかさと乾いた音がする。
静かな住宅街。
「ひとつ聞いてもいいですか」
「ん」
「高野さんがこうやって手繋ぐのは、少女漫画に感化されてるからですか」
「なに、急に」
だって気になる。
そんなにスキンシップの激しい人じゃなかったはずだ。高校の時は、だけど。
離れていた十年で何かあったんだろうか。
「理由が知りたいわけ?」
「まあそうですね」
「単純だ。寒いから」
「‥‥‥‥‥‥」
「お前が好きだからってのもある」
「‥‥‥‥‥‥」
「それから、」
「まだあるんですか」
「お前が俺の視界から消えないように」
どういう意味だ?
俺が訝しんで顔を上げると、その人は俺を横目に、意味ありげに口端を上げる。
「無意識なんだろうけどさ。お前最近、こっちが気抜くと、俺の後ろ歩いてんだよ。高校の時みたいに」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥!!?」
「前は言えなかったけど‥‥‥‥やっぱ、隣にいてほしいんだよ。好きなヤツには」
きゅ、と握る指に力を込められて、ようやく気付いた。
今、いわゆる恋人繋ぎをしていることに。
「俺はもう、後悔とかしたくねーから」
いつからだったろう、触れられても、甘い言葉を囁かれても、受け入れるようになってしまったのは。
十年前だったら恥ずかしくて堪らなくて、俺から逃げてた。
再会してからは嫌だった。怖かった、という方が正しいかもしれない。
この人の体温を感じてしまうのが。
この人の想いと、この人への想いに気付いてしまうのが。
なのに今は最早、嬉しいという気持ちが、他を押しのけて何より強くなってしまって。
「とりあえず俺、寒いの駄目だし」
「‥‥‥‥冬生まれのくせに」
「関係ねーよ。まあとりあえず、お前には今年の冬、ずっと一緒にいてもらうから。いや、違うか」
冬だけと言わず、春も、夏も、秋も。
今年だけと言わず、来年も、再来年も、その先も。
お前には、俺の傍にいてほしい。
あんたやっぱり少女漫画に感化されるよ、と俺は俯きながら思う。
昔は寡黙でクールで、スキンシップっていえばキスとセックスくらいで。
なのに今はやたら甘いこと言うし、頬や髪に触れたり、手を繋いだりして、俺の体温を感じ、自分の体温を感じさせようとする。
俺は十年前も今も、何かとあんたに顔を赤くさせられる。
そういう運命なのかと勘ぐってしまうほど。
「小野寺」
「‥‥‥‥‥‥‥はい」
「お前こういうことしても、嫌がらなくなったな」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「調子乗るぞ?」
なんだよ、今更。
あんたのせいじゃないか、何もかも。
俺だけに見せてくれる顔がたくさんあるって気付いてしまったのも、
その低い声を聞き慣れて心地よさすら覚えてしまったのも、
触れられるとたまらなくなるのも、
こうして隣にいるだけで、心臓が張り裂けそうなくらい切なくなるのも。
「‥‥‥‥‥‥高野さん」
「ん?」
涙が零れてしまうのは、
この想いを告げる恐怖と、不安と、
きっと俺の何もかもを受け入れてもらえるとわかっている、喜び。
隣